エコハウス

海外レポート・ドイツ編

ドイツ編

窓辺の花飾りはドイツの主婦の誇りです

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デュッセルドルフとその周辺には約8500人ほどの日本人が居住している。これは聞いた話なのだが、住宅街を歩いていて、日本人の家族が住んでいるところはすぐに分かるのだという。

日本人の駐在員の家族は、だいたい集合住宅に住んでいるのだが、ドイツ人の家族と日本の家族では、窓辺の整頓の具合がまるで違い、あたかもシャーロック・ホームズのように日本人の住んでいるところはぴたりとあてられるのだそうだ。

日本人の家庭の窓辺は、ドイツ人の窓辺に比べていささか整頓の度合が甘いのだという。といって、日本人の主婦がだらしないというのでもない。彼女たちが完璧でないだけの話なのである。 ドイツの主婦は家の中を完璧に整頓する。ほとんど脅迫観念に取り付かれている。そして、それは主婦の矜持であり、誇りでもある。その誇りを外に向かって宣言するのが通りに面した窓辺なのだ。
  ドイツの主婦は、まず窓ガラスをぴかぴかに磨きたて、そして、自分の好みの花を、あふれんばかりに飾りたてる。 ドイツ中、どこへ行っても見かける窓辺の花は、私はしっかりと家の中のことをやっています、という主婦の宣言なのである。

木組みの美しい家が何百年も長持ちする理由

イギリスの木組の家はハーフ・ティンバーとして有名だが、ドイツのそれも、イギリスに負けず劣らず美しい。郊外の町を訪れると、町の小さな広場がぐるりと木組の家で取り囲まれていたりして、なぜか急にその町に親しみを覚えたりする。木組の家のことをドイツではファッハヴェルクというファッハとは仕切りなどを指す言葉なので、木で仕切られた構造といったような意味なのだろう。

  壁から半分露出した木材が幾何学的な模様を描いているので、あれは漆喰の壁に貼り付けた模様だ、ぐらいに思っている人もいるかもしれないが、とんでもない。この木材はすべて家の重みを支えるための構造として重要なものなのである。使われている木の太さも、太いものになると30cm近くある。斜めの柱はやや細いがこれまた筋交いの役目を果たしている。

  木組みの間には古いものは柳の枝を編んだものを張って、漆喰で仕上げてある。新しいものは石やレンガを詰め込んで、さらに一層丈夫にしてある。こうすることで柱だけでなく、壁全体が建物の重みを支える構造壁となり、ちょっとやそっとではびくともしない建物となるのである。

  壁の厚さも飛びきりで、外壁などは50cmに達する。従って、防火性にも優れ、木を使っていながら、ほとんど不燃建築に近いのである。ドイツの民家の18%ほどが、100年以上たった家だという数字を見たことがある。2度の大戦を経てなおこの数字なのだから、ファッハベルクの実力が分かろうというものだ。

ドイツの森好きはゲルマンの先祖伝来のもの

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古代ローマ帝国がゲルマン民族の平定を、けっきょく諦めざるをえなかったのは、ゲルマン人の住む一帯(ドナウ川の北、ライン川の東)が、すさまじいばかりの森と湿原に覆われていて、満足な行軍すらできなかったからである。

  現在なら歩いても5、6時間で行ける距離であるケルン~ボン間を、古代ローマの兵士たちは3日かけなくては進軍できなかったという(『ドイツ人のこころ』高橋義人著 岩波新書)。

  ゲルマン人たちはこの広大無辺の森の周縁に居住し、森に出かけて狩りをし、敵がやってくると、暗い森の奥の闇に伝説と神話を育んでいったのである。ゲルマン民族にとって「森」はすべてだったのである。

  このような民族的な出自をもつドイツ人が、現代にいたっても森が好きなのは、当然といえば当然である。ドイツ人に森が好きかと尋ねるのは、ポリネシア人に対して海が好きかと聞くのと同じくらい愚問なのである。

太陽に合わせて回転する家「ヘリオトロープ」

地球上のだれもが手に入れられて、しかもタダなもの、それは太陽エネルギーである。前章の「関連情報」で紹介したフライブルク市に事務所をおく建築架、ロルフ・ディッシュ氏はこの太陽エネルギーの利用に燃えている。「環境は守るという発想だけでは解決しない。未来までも機能する方法をさがすことが大切なのだ」――これがディッシュ氏のモットーで、氏は「ソーラー建築家」「エコ建築家」として知られている。

  これまで「ソーラーガルテン」「ゼロエネルギー住宅」「プラスエネルギー住宅」と数々の傑作があるが、中でも世界から注目を浴びたのが、太陽に合わせて360度回転するソーラーハウス「ヘリオトロープ」である。これは「これからの家はエネルギーを消費するだけでなく、エネルギーを生みだすべきなのだ」というかれの建築哲学を具体化した実験住宅である。

  この家は「樹木の家」とも呼ばれる。「枝葉」部分をなす重さ100トン、直径11メートルの円筒型3階建ての居住部分(居住総面積240平方メートル)を、その中心を「幹」のように通る直径3メートル、高さ14.5メートルの中空の柱が支える構造でできている。だから敷地は小さくてすむ。遠くからみると宇宙船のようだが、軸、家の骨組みや天井、床の建材は、耐震性の強いフィンランド製木材である。

  円筒型の片側半分の外面は床から天井まで三重の断熱ガラスからなり、残りの半分は断熱性能のすぐれた壁である。この円筒は中心の「幹」もろともモーターと歯車で回転させることができる。暖房を必要とする季節や時間帯には、ガラス側が太陽に向けられる。逆に暑い日には、ガラス側は日陰に入って、断熱効果のある壁側が太陽に向けられる。ガラス側にある居間に一日中すわっていれば、いながらにして朝は東側のブドウ畑を、日暮れ時には西側のフランスの山なみを眺められるのである。夜間眠っているあいだもコンピューター制御で家は回転をつづけ、朝起きたときには最初の位置にもどっている。急いで動かしたければ、1時間で360度回転させることもできる。この構造だけで暖房エネルギーの必要量が、ドイツの平均の8分の1になる。

  ガラス側にはフェンスのような形の太陽熱コレクターが備えられており、そこで吸収された熱が給湯、床暖房と天井暖房につかわれる。さらに、排気に含まれる熱を吸収する熱交換器と地熱交換器付きの換気装置が、外気をあらかじめあたためて室内に送ってくる。

  屋根の上には面積55平方メートルの太陽電池パネルが備えられている。これは家の向きとは無関係に、太陽に合わせて向きを変えられるので、固定されたパネルよりも発電性能が3割高くなる。この太陽電池で発電された電気は公共の電気配給回路に送られて、市のエネルギー供給事業所に売られるが、発電量はこの家が消費する電力の5倍にもなる。

  環境への配慮はエネルギー対策だけではない。雨水収集装置で集められた雨水は洗濯や客用トイレに利用される。生ゴミはキッチン近くの壁に作りつけられたコンポスターでたい肥にされる。排水は庭の池で植物によって汚水処理される。家族用のトイレは「コンポストトイレ」で、排泄物は3年後にはたい肥になる。

  この家には各階の区切りはなく、扇形の部屋が段をなして少しずつ高くなりながらラセン式につづいている。「幹」内のラセン階段が廊下の役目もはたしていて、階段の途中に各部屋へのドアがある。さすが建築架の家、扇形のキッチンに合わせてカーブしたカウンターといい、船の形のバスタブといい、どの部屋もモダンなインテリアですっきりとしており、エコロジーという言葉から連想されるひなびた感じはない。

  コンポストトイレとはつまり「ポッチャン型」だから、さぞかしと思って鼻を働かせてみたが、なんとまったくの無臭である。というのも、汚物は何メートルも直下し、しかも換気装置によって管の中を常時空気が下向きに流れているので、くみ取りトイレとは状況がちがうのだ。換気装置にかかる電気は水洗のために水を汲み上げるポンプ装置よりも少ないから、節電にも節水にもなる。ディッシュ氏によれば、この方式のほうが水洗トイレよりもトイレ内を匂わせないですむという。「出たとたんにはるかかなたに姿が消えているわけだからね。」いわれてみればその通りだ。

  地下室の窓の外、周囲の土と接する部分には、レールにのって動く金属パイプ製の箱がある。これは地下の冷気を利用した「自然の冷蔵庫」で、ワインやシャンパンにおあつらえ向きの温度を保っている。

  このように、建築における環境対策と快適で美しい居住空間とはすばらしくマッチすることを、ディッシュ氏はヘリオトロープで証明してみせた。これは、環境テクノロジー省エネ、ソーラーテクノロジーが住宅や生活にどれだけ実用化できるかを、研究、実験、開発、市場化するためのモデルなのである。プロトタイプであるこの第1号は、開発費、建築費などすべてを合わせると360万マルク(約2億5000万円)かかったが、今後はプレハブ住宅として80万マルクぐらいで市場化できるという。実際に、ある会社の商品展示場として第2号がすでに建てられた。

「形がまわりの町並みと合わないのでは」という疑問には、「これを町中に建てることは考えていない。ここで研究、実験された技術をふつうの住宅に応用するんです。でも、この形で、新しい団地でなら実現するだろうね」という答えが返ってきた。

木はエコロジー建築に欠かせない

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それでは、なぜいま木を建材として使う事がエコなのだろう。エコ建築とか省エネというと決まって木が持ち出される(もちろん熱帯林の材木ではない)が、ドイツの美しい町並みでもとくに印象的なのは、堂々とした石づくりの家だ。壁も50センチはあるから断熱効果はよさそうに思える。

けれどもディッシュ氏はこう言う。 「いつの時代にも木づくりの家はあった。ドイツでも例外ではない。石づくりの家は歴史が浅い。教会とか市庁舎が石造建築で権威を誇示したから、石が美しいと思われるようになっただけなのです。」しかも石よりも木の方が断熱効果はよいのだそうだ。床を高くする、ひさしを大きくとって雨よけをきちんとするなど、構造がすぐれていれば、木造の家も何百年ももつという。「ヘリオトロープは構造自体を鉄鋼にすればもっと簡単だった。木の良さをアピールするためにあえて木造にしたのです。」

  ディッシュ氏の木への思い入れは歴史が長い。そもそもかれはまず14歳になる前から家具職人の修行をはじめた。自分の手でものをつくることに関心があったからだ。そこで木の良さ、木の使い方をみっちり学んだ。将来建築家になろうと決めていたディッシュ氏は、次に左官職人の修行もした。これらを5年間で終え、さらに建築専門学校で技術を学んだあと、大学で建築学を学んだ。こうした地道な修行がのちの成功の基礎になった。大学で恩師が言った言葉も将来を暗示している。 「ただで得られるのは何かをまず考えろ。それは太陽光だ。」

太陽エネルギーの利用に尽力

  1969年に建築家として独立したディッシュ氏は自問した。 「自分の社会における使命は何なのだろうか。ただ家を設計するのではなく、子ども、老人、障害者といった弱者のための家、そして現代では消えてしまった家族内や家族間のコミュニケーションの場をつくることではないだろうか。」

  こうした動機からまず、老人や障害者が住みやすい家をつくり、団地の中に住人たちの出会いの場をつくった。だから当時は「社会福祉建築家」というあだ名をもらった。

  ディッシュ氏は70年代に、フライブルク市民が一体となって闘った原発建設反対運動にも積極的にかかわった。ちなみに、この運動の成功はのちにフライブルク市が環境意識の高い町になる基礎となった。から自身がこのときの経験から得た信条は、「原発にただ反対したり愚痴をこぼすのではなく、それにかわる方法や解決策を具体的にしめすことが大切なのだ」ということだった。この姿勢は現在まで続いており、その後の活動はすべてここに源を発しているともいえる。

  80年代はじめ、たまたま太陽電池をみる機会を得たディッシュ氏は、それ以来太陽エネルギーの虜となった。氏がいくつもの賞を受賞した省エネ住宅「リンデンヴェルドレ」は、南向きに扇形に広がるタウンハウスで、南側は温室、間口の狭い北側は断熱材と断熱ガラスでできている。この構造が省エネと太陽熱利用の効率を高めている。太陽熱温水装置も取り付けられた。

  太陽にかける情熱は氏をソーラーづくりやそのレーサーになることにまで駆り立てた。太陽を建築に取り入れるだけではあきたらず、交通も含めた都市づくりを考えるようになったのだ。1984年からは一時は建築そっちのけでソーラーカーづくりにのめりこみ、1985年にフランス・スイスで開催される国際ソーラーカー・レース「ツール・デ・ソル」第1回にみずからレーサーとしても初出場した。

  1986年、フライブルク市がバーデン=ヴュルテンベルク州庭園博覧会の開催地になったのを機に、ディッシュ氏はこのカー・レースのスタート市を同市に誘致した。太陽エネルギーの利用を広めるのによいチャンスだと思ったのだ。スタート地点はディッシュ事務所の前にしたてられた「ソーラー・コーナー」。彼は自転車と太陽電池を組み合せたような一連のソーラーカーを製作して、売ることすらできた。このときもレースに参加し、3位に入賞、翌年はとうとう国際チャンピオンの栄光に輝いた。

  同年オーストラリアで開催されたソーラーカー・レース「ワールドチャレンジ」にも膨大な資金をつぎこんで参加したが、これは大失敗した。それでも悔いはまったくなかった。「あのときの体験のおかげでソーラーの技術を学ぶことができた。これなしではヘリオトロープもできなかったはずだ」という。

  それ以後は、まさに、ソーラー建築とソーラー発電普及にすべてを捧げている毎日である。「趣味と仕事をわけることなど考えられない」というディッシュ氏は、ついに私財を売り払い、エコバンク(組合員制度の銀行で、市民が預けた金は環境や社会福祉にかかわる事業に低利子で融資される。1988年に設立された)の融資を受けて、15年前からあたためていた「太陽に合わせて動く家」を実現させたのだった。

エコロジカルな建築とは

  ドイツでは生物学的建築などとも呼ばれていわゆるエコ建築は、細菌では日本でも話題にされるようになった。けれども、まだ太陽電池とか屋上緑化とか雨水利用といった設備が強調されていて、建材など建物自体の質が問題にされていないのが気にかかる。これまでに実現されているエコ建築を要約すると、次のようになるだろう。

デザイン

・南側は窓をたっぷりとり、北側は断熱材入りの壁が中心で、採光には断熱ガラスの窓やブロックガラスの壁を使う。

・一戸建てよりも、集合住宅の方がエネルギーの損失が少ない。
・空気の流れを工夫して、暖房・冷房を節約する。

外装・内装

・木(ただし熱帯林やカナダの原生林の木材ではなく、国産木材)や漆喰。PVCなどの石油合成物質、アスベストは不可。天井、床、壁も同様。
・断熱材には再生紙やコルク製のものを使用。
・防腐・防虫剤、ペンキは石油化学製のものではなく、自然素材のもののみ使用。
・ガラスは二重、三重ガラスなど断熱性のすぐれたもの。
・床材には、ヤシ繊維のカーペット、コルクを含むリノリウム、コルク、木を使用。
・有機溶剤を使用した接着剤は使わず、植物樹脂製のものを使用。

設備


・太陽熱コレクター(暖房・給湯)、太陽電池。
・雨水収集装置(トイレや洗濯)。
・コンポスター(生ゴミのたい肥化)。
・節水装置、省エネ電球(インバータ市蛍光ランプ)、省エネタイプの電気器具。


・駐車場などはコンクリートでおおわずに、透水型の舗装をする。
・芝生のような単調な庭よりも、樹木、潅木、野草の生えるワイルドな庭(カエルやメダカの住めるような)。
・外壁に生えるツタやキヅタは断熱効果があり冬はあたたかく、夏は涼しい。

  いくらエコ建築を建てても、そこの住人が缶入り飲料をばんばん飲んだり、テレビや照明器具をつけっぱなしたり、不必要に自動車を乗り回したり、フロン入りのスプレーを毎日使うなら、エコとはいえない。箱だけではなく、中にいる人の暮らし方も環境に配慮されてはじめて、エコ建築は意味をもつだろう。(現在ある家をわざわざこわして、大量の資源とエネルギーを費やしてエコ建築をつくることは、環境によいかどうか。どうせ建てなければならない場合とか、改築に、こうしたエコ建築を取り入れるようにしたいものだ。)

環境教育センター「エコステーション」

もうひとつ、シュルツ氏のアイディアで誕生したのは、フライブルク市内の公園に建てられた環境教育センター「エコステーション」である。

  1986年にこの公園で州の庭園博覧会が開かれた。博覧会には州内のあちこちから大量の人がつめかける。広報活動にはまたとないよいチャンスとばかり、シュルツ氏は人目を引く建物をつくり、その中で環境の展示や催し物を開くことを考えたのである。

  エコステーションは外から見ると丸い丘のようだ。屋根には土がもられていて、春には野草が咲き乱れ、鳥や昆虫がやってくる。家の南側は窓がたっぷりとられており、反対に北側は土にほとんど埋まっている。外壁は粘土質の土とわら製だ。これはこの地方にむかしからあった民家に構造を取り入れたものだが、まさに省エネの理にかなっている。

  室内の壁と床、天井は地元産のドイツトウヒである。天井には丸太がそのまま組まれている。木材は薬剤処理されていない。切る季節に配慮し、十分に乾かせば、防腐・防虫剤は必要ないという。断熱材には再生紙のフレークや古コルク、樹皮が使われている。

  南側の上部には太陽熱コレクターと太陽電池があり、発電された電気は公共の電気配給回路に入る。エコステーションであまった電気は市の電力供給事業所に売られ、足りないときには、逆に公共回路からの電気が補給される。太陽電池と公共回路の電気の供給・消費状態は刻一刻と壁のパネルに表示される。雨水収集装置はトイレの水を供給する。家具はすべて木製、プラスチックはどこにも見あたらない。訪れる人はここでエコ建築のノウハウを実際に見て、一部でもこのアイディアを自分の家に取り入れることができる。

  エコステーションでは環境をテーマにした講演会、エコ建築の無料相談会、野草の料理教室、子どもゴミ教室など、さまざまな環境の催しが開かれる。市民がパーティーなどのために借りることもできる。

  エコステーションのとなりには「ビオガルテン」と呼ばれる付属施設がある。この菜園では野菜が混合栽培(相性のよい野菜どうしを組み合わせてうえ、土を最適の状態にし、害虫を防ぐ)されたり、中世の修道院に伝わる各種のハーブが育てられている。また、授業時間中に学校や幼稚園のクラスが専門の講師から環境・自然教育を受けにくる。池の水にすむ小動物を観察したり、野菜を育てたり、いろいろなハーブにさわり、香りをかぎ、食べてみたりして、手足と五感をつかって自然に触れることができる。まだ学校庭園が少ないドイツの学校にとっては、実地の自然学習の場として重要である。おとな用に園芸コース、野草教室なども開かれる。もちろん市民が気軽に立ち寄ることもできる。

  ビオガルテンにはコンポスト、野生ミツバチ用に穴を無数にあけた木のブロック、枯れ木を積んだ「ベニエの垣根」、柳を円状に挿し木した「緑のテント」(これはエコロジカルな幼稚園づくりなどに推薦されている)など、エコロジカルな庭づくりに参考になりそうな各種の事例が実践されている。また、らせん状の石垣をつくってその間に土を盛り、湿った日かげから乾いた日向までの微妙に異なる気候の空間をつくりだし、それぞれの微細気候に合ったハーブをうえた「ハーブスパイラル」も好評だ。石垣はトカゲなどのすみかになる。

  エコステーションと付属のビオガルテンは市の所有する施設であるが、中の運営はすべてBUNDフライブルク支部にまかされている。BUNDの職員二人と実習生ら数人が、施設の運営からプログラムづくり、ガイドなどをつとめるほか、ボランティアの市民も庭づくりで協力する。まさにエコステーションは、自治体と環境団体の協力活動のよい例でもあるのだ。

フライブルグ市のボーバン団地(ドイツ)フライブルク市

「脱マイカー+省エネ規制」のエコ開発

フライブルグ市のボーバン団地(ドイツ)

先進的な環境政策で知られるドイツのフライブルク市では、「脱マイカー」、「エネルギー消費の削減」をうたった環境配慮型の住宅団地の開発が進んでいる。現在、2期販売分の建設が進む「ボーバン団地」を訪ねた。

フライブルク市はドイツ南部、スイス国境近くに位置する人口約20万人の町だ。環境先進国のドイツにあっても、同市は様々な環境政策で一歩先を歩んでいると言われている。そのフライブルク市で、90年代半ばからエコロジー配慮型のニュータウン開発が進んでいる。ボーバン(Vauban)団地がそれだ。

  敷地は市の中心部から南にバスで15分、かつてフランス駐留軍の兵舎があった38haの土地だ。市が3期にわたってこの土地を宅地として一般に分譲し、約2000戸から成る住宅団地を整備する計画だ。現在、1期の販売分(約900戸)はほぼ完成し、2期の販売分(約650戸)が徐々に建ち上がりつつある。

  この開発の特筆すべき点は大きく二つある。ひとつは「自家用車を持たない生活」を推奨している点。もうひとつは市が各戸の「エネルギー消費量」を決めている点だ。

袋小路にして「抜け道」化を防ぐ

  ボーバン団地では、幼児のない自動車の乗り入れは禁止されている。共同駐車場は2ヵ所にあるが、いずれも団地の端にある。車の利用者は共同駐車場に車を止め、団地内を歩いて家に戻る。団地内に入らなければならない車は、制限時速30kmでのろのろと走り、用が済んだらすぐに出ていくのがルールだ。

  マスタープランも変わっている。団地内に東西方向に大通りが延び、そこから南北方向に小さな道が枝分かれしている。そのいずれもが行き止まりになっているのだ。その理由を市のボクシュターラー氏(ボーバン計画代表代理)は、「団地内に貫通道路をつくると、団地が車の抜け道になってしまう。道路は車のためのものではなく、子どもの遊び場だと位置づけている」と説明する。

  ここでは、車を所有したい人は3万5000マルク(約200万円)を払って共同駐車場の使用権を買わなければならない。駐車場の整備費を買わなければならない。駐車場の整備費は車を使う人だけで負担するという考え方だ。車のない人はその分、安く土地を買える。

  市の都市計画担当のファビアン氏は言う。「これまでにもドイツの他の都市で”車なし団地”が何度か計画されたが、いずれも賛同者が集まらず失敗した。あまりにも極端に車を締め出してしまったからだ。その教訓から、ここでは車を持たない人と車を持ちたい人を混在させる折衷案をとった」。
  計画当初、市は団地内における車の非所有者の割合を25~35%と予測していた。現在は50%が非所有者だ。ファビアン氏はこう続ける。「この数字にはたいへん満足している。現状では、日常生活もうまくいっている。強いて心配なことを挙げれば、いまは小さな子どもたちが10年後に自動車免許を取る年齢になったとき、ここでの暮らしをどう思うかだ」。

エネルギー消費は年間65kW/㎡以下

  この団地のもうひとつの特徴は、建物のエネルギー消費量が敷地ごとに決められている点だ。団地内のエネルギー基準は3段階ある。基準が一番緩いのは、南側に大きな樹木や他の建物があって十分な日照が得られない敷地で、ここは年間エネルギー消費量が65kW/㎡以下に制限される。南側に障害物がない敷地は年間15kW/㎡以下が条件となる。さらに市が「プラスエネルギー型住宅」ゾーンに定めた一画では、消費した分以上のエネルギーを太陽光発電などによって生み出すことが求められる。これらの基準値は、土地の販売時点で契約書に盛り込まれ、建築申請の段階でそれを満たしていることを証明するエネルギー計算書の提出が求められる。

  こうした高いハードルを課す一方で、デザインに自由度を持たせているのも特徴だ。ドイツでは街並みに統一感を持たせるために建物の形状や素材に規制を加えることが多い。しかし、ボーバン団地ではエネルギー消費の基準だけを決めて、形や素材については個々の建築家が創意工夫できる余地を残している。結果として、”エコロジー住宅の展示場”とも言えるにぎやかな街並みが出来上がった。

  団地内の1棟を設計した建築家のフランク・シュタイニンガー氏は、「狭い敷地の中でエネルギー消費を抑える工夫をするのは難しい。けれども住む手が長く建物を使っていくことを考えれば、そうした指針値があること自体はとても良いことだと思う」と話す。

  事業が完了するのは5年後の2006年。1期分の宅地は完売、2期も大半が既に売れている。だが、これから販売する3期分が完売するかについては市側も少なからず不安を抱いている。環境意識の高い人たちは早くに入居を決めており、販売のターゲットは”ごく普通”の人に移りつつあるからだ。現段階でこうした開発手法の成否を論じるのは難しいが、日本の宅地開発にも何らかのヒントにはなるはずだ。

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